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数値限定発明についてTweets(6)

2012.06.13

>Tweets(5)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

3.数値限定発明の出願時の留意点

3-1.臨界的意義要求の基本

 上記2-2.で述べた(a)~(c)のケースでは、審査時において新たな公知技術は見つからないことを前提とした。しかし、出願人の調査力には限界があるため、出願時には認識していなかった新たな公知技術が審査時に見つかり、拒絶理由通知で指摘されることが多い。すなわち、一部の公知技術を認識していたとしても、認識していなかった公知技術が出現するという点ではケース(d)に分類できる。結局、数値限定発明の場合、そのほとんどの出願が、審査時においてケース(d)のいずれかに分類されるものと思われる。

 各(d)のケースにおいて、新規性無しとされる(d-5)および(d-6)の一部は除いて、他のケースにおいて、進歩性が認められるための最も高いハードルは、(d-2)または(d-3)に分類され、判断基準②が適用された場合の「数値限定の臨界的意義」の充足である。

 出願時において、「本願発明はその構成に特徴が有り、数値限定は補足的なものである」、「本願発明の特徴は数値限定以外にも存在する」、または「本願発明では、公知技術には無い異質な効果を見いだした」と思っていても、審査段階で、数値限定した数値範囲以外はほぼ同一で、訴求効果も同じである公知技術が発見されない保証は何も無い。

 そうであれば、あらかじめ出願時にそれに対する備えをしておくことが賢明、というより不可欠である。さらに、「数値限定の臨界的意義」は客観的に証明できるようにしておかなければならないことにも留意が必要である。実際は放物線的な範囲までも臨界的意義を有するように記載したり、ブラックボックスを設けて第三者が正確には追試できないような記載としたりすることは、百害あって一利無しといっても過言ではない。

 審査段階においては、審査官は検証のしようが無いため特許査定を得ることはできるかもしれない。しかし、競合相手にとって重要なビジネス領域であり、本願が競合のビジネスの大きな障害となる特許であればあるほど、必ず無効審判等のアクションを起こしてくる。審判や裁判においては、必要であれば相手方は追試実験等を実施して反証データを提出してくる。このとき、本願明細書中の記載が「風呂敷を広げた記載またはブラックボックスを含んだ記載のみ」であると、競合相手にとって格好の攻撃材料となるのである。

 たとえ「正直ベース」の部分には明確な臨界的意義があり、「正直ベース」の部分が非常に優れた発明であることが間違いないとしても、そのことが出願時の明細書に記載されていなければ、「臨界的意義の存在」も「優れた特許発明であること」も認められない。あとから「正直ベース」部分の実験データを提出して主張しても、ほとんど認められない。特許は、出願時を基準にして「独占排他権」という強力な権利を特許権者に与えるので、「後出しじゃんけんは絶対に許さない」という理念に立っているからである。 ・・・・つづく

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