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数値限定発明についてTweets(5)

2012.06.05

>Tweets(4)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

(3)(c)の、公知技術が何ら記載していない異質な効果を見いだして出願したケース。

 このケースは、上記審査基準の判断基準①に相当し、原則「その数値限定に臨界的意義」は要求されない。すなわち放物線的効果であっても進歩性が認められる。ただし、その異質な効果は「当業者が容易に想到できない」ことが条件である。

 なお、またまた蛇足ながら、「当業者が容易に想到できない」は進歩性判断における常套句であるが、何をもって「当業者が容易に想到できない」といえるのか、判然としない基準である。電子軌道のようにある一定の範囲を持った概念であり、それゆえ、法律の専門家である特許庁と裁判所でも、というより審査官、審判官および裁判官各個人によって判断が異なることはまれではない。

 (4)(d)の、公知技術とは関係なく、他の目的(理由)により数値限定して出願したケース

 簡単に言えば、出願時に、本願に近い公知技術の存在を出願人が知らない場合である。公知技術との差別化のため数値限定したのではなく、上記した種々の理由によって数値範囲を限定して出願したものである。しかしながら、出願人が知っていようがいまいが、進歩性の判断は公知技術との対比で判断されるので、(d)は結果論的に次のようなケースに分類される。

 (d-1)出願人の当初の認識通り近似する公知技術が無く、「数値限定」以外に差異があるケース。

 (d-2)出願人が知らなかっただけで、本願と数値範囲以外の部分はほぼ同じで、かつ同質の効果について記載している公知技術が存在し、その公知技術には数値範囲についての記載が無いか、あるいは、本願の数値範囲を包含する(または重複する)記載があるケース。

 (d-3)出願人が知らなかっただけで、本願と数値範囲以外の部分はほぼ同じで、かつ同質の効果について記載している公知技術が存在し、その公知技術に記載されている数値範囲は本願の数値範囲とは異なりかつ重複しないケース。

 (d-4)出願人が知らなかっただけで、本願と数値範囲以外の部分はほぼ同じであるが、本願が訴求する効果については何ら記載していない公知技術が存在したケース。このとき、その公知技術には数値範囲についての記載が無い、もしくは本願の数値範囲を包含する(または重複する)記載がある、または本願とは異なりかつ重複しない範囲の記載がある。ただし、本願の訴求する効果について、公知技術は全く気付いていない。

 (d-5)出願人が知らなかっただけで、本願と数値範囲も含めてほぼ同じ公知技術が存在し、本願が訴求する効果と同質の効果についての記載もされているケース。

 (d-6) 出願人が知らなかっただけで、本願と数値範囲も含めてほぼ同じ公知技術が存在し、ただし、本願が訴求する効果については何ら記載されていないケース。

 2-3.各(d)のケースの進歩性有無の判断

 出願時において詳細な先行技術調査を実施することはなかなか難しいことであり、出願人の立場としては、審査段階において非常に近しい公知技術が見つかり、後付け的に本願の状況が上記(d-1)~(d-6)に分類されることの方が多いのではないかと思われる。このケース(d)での進歩性有無の判断基準をよく理解しておくことで、出願時には目に見えない公知技術による障害をでき得る限り小さくする布石を明細書中に打っておくことができる。

(1)ケース(d-1)のとき
 (d-1)は、上記1-2.に記載した基準③に相当し、「数値限定した数値範囲以外に、当業者が容易に想到できない部分があれば、本願発明は進歩性を有する。」との基準が適用される。つまり、数値範囲以外に公知技術と違う部分が存在する場合であるので、その違いが、「当業者が容易に想到できない」ものであれば進歩性を有すると判断される。

 (2)ケース(d-2)のとき
 (d-2)は、結果的に上記(a)となるケースであり、上記審査基準の判断基準②に相当し、公知技術に対して「限定した数値範囲内で顕著な効果」すなわち「数値範囲が臨界的意義」を有していれば進歩性を有すると判断される。(a)との違いは、出願時に公知技術を認識していないので、「臨界的意義の記載」に対する注意が欠如する点である。

(3)ケース(d-3)のとき
 (d-3)は、結果的に上記(b)となるケースであり、公知技術とその数値範囲がどの程度かけ離れているかによって、上記判断基準②が適用される場合と③が適用される場合とに分かれる。②の基準が適用されることになった場合の(b)との違いは、(d-2)と同様「臨界的意義の記載」に対する注意が欠如する点である。③の基準が適用されることになった場合においても、その数値範囲が「当業者が容易に想到できない部分」であるように印象付ける記載とすることへの注意が欠如するおそれが多分にある。

 (4)ケース(d-4)のとき
 (d-4)は、結果的に上記(c)となるケースであり、原則「その数値限定に臨界的意義」は要求されず、その異質な効果が「当業者が容易に想到できない」ものであれば進歩性を有すると判断される。(c)との違いは、やはり、「その異質な効果は当業者が容易に想到できないもの」であるように印象付ける記載とすることへの注意が欠如する点である。

 (5)ケース(d-5)のとき
 (d-5)は、ほぼ同一の公知技術が存在した場合であり、簡単に言えば、他人が先にほぼ同一の発明をしていた場合である。したがって、進歩性有無の判断以前に新規性無しとして特許性が否定される。

 (6)ケース(d-6)のとき
 (d-6)は、数値範囲も含めた発明の構成が公知技術とほぼ同一であるが、訴求効果が異なっており、一種の用途発明に分類される。用途発明も、その特許性(新規性、進歩性)の判断が判りづらく、誤解を恐れず端的に言えば、「化学物質を含む組成物の用途であって、当業者が、当該用途を容易に想到することができない」場合に、進歩性有りと判断される。化合物そのものについては、用途が異なるだけでは原則新規性が認められず(審査基準)、機械、器具、装置等については「用途発明」という考え方自体が適用されない(審査基準)。

 したがって、本願発明が「化学物質を含む組成物の用途」の発明であって、その化学物質や組成物についてすでに知られている属性や構造等から、当業者がその用途を容易に想到することができない場合は、進歩性有りと判断される。

 一方、本願発明が、化合物そのもの、機械、器具、装置等の場合には、数値範囲も含めた発明の構成が公知技術とほぼ同一である以上、進歩性有無の判断以前に原則新規性無しとして特許性が否定される。・・・・つづく

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