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数値限定発明についてTweets(2)

2012.05.08

>Tweets(1)からのつづき。[文責 弁理士/技術士 葛谷(くずや)]

1-2.数値限定発明の進歩性有無の判断(特許性判断)

 数値限定発明の進歩性有無を判断する場合、審査基準では、当該数値限定発明と公知技術とを対比し、この両者の差異を次のように2つのケースに分類して、そのケースごとに判断基準を設定している。係争となったときの裁判所における判断は、そのケースに該当するか否かおよび判断基準の当てはめの点で、結論が特許庁と異なる場合があるものの、「各ケースの分類およびケースごとの進歩性有無の判断の基準」については、ほぼ同様の立場をとっているものと思われる。なお、下記判断基準は補足記載したので、審査基準の記載通りではない。
(1)ケース分類および進歩性有無の判断基準

 審査基準では、その進歩性有無の判断は下記の通り、公知技術と数値範囲のみが異なることを前提に記載されている。

 ①請求項に係る発明(本願発明)が、限定された数値の範囲内で、刊行物(公知技術)に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質な効果を有し、この効果が本願出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないとき、本願発明は進歩性を有する。

 ②請求項に係る発明(本願発明)が、限定された数値の範囲内で、刊行物(公知技術)に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果と同質であるが際立って優れた効果(顕著な効果)を有し、この効果が本願出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないとき、本願発明は進歩性を有する。なお、顕著な効果は、限定された数値の範囲内全てで発揮される必要がある。

  なお、上記判断基準の「刊行物(公知技術)に記載されていない有利な効果」における、「記載されていない」の意味は、「刊行物に効果が記載されていない」との意味ではなく、「本願発明ほどの有利な効果」は記載されていない、との意味である。

 (2)進歩性有無の判断基準についての問題点

 ここで、1-1.で定義した「数値限定発明」と、その数値限定発明の上記(1)に示した「進歩性有無の判断基準」との間には、何かしっくりこないものがある。特に出願人(以後、発明者も含めた意味とする)の立場からすれば違和感が大きいのではないだろうか。

 その理由は、審査基準が「数値限定発明」を、「限定された数値範囲のみが公知技術と異なる発明」のように公知技術との関係で明確に定義していないにも関わらず、その進歩性有無の判断では、公知技術と「限定された数値範囲のみが異なる」場合にしか言及していないからである。出願人にしてみれば、1-1.で少し触れたように、公知技術との関係で数値限定を行ったのではなく、別の理由で数値限定した出願も数多くあり、対比すべき公知技術が無い(少なくとも出願人がそう認識している)場合の判断基準はどうなのかが、上記2つのケース分類では分からないのである。

 この点の不備を補うかの様に、表現はいろいろであるが、要は、

 ③数値限定した数値範囲以外に、公知技術とは異なりかつ当業者が容易に想到できない部分があれば、本願発明は進歩性を有する。

 というケースを分類として加える論説が多数あり、裁判所の判断も概ねその通りである。すなわち数値限定の有無に関係なく、他に進歩性を肯定する部分が存在するというケースである。このケースをさらに細かく分類した論説もあるが、一応大分類としては、以上3つのケース分類となる。

 (3)出願人の立場から見た進歩性有無の判断基準について

 以上の3分類により、審査基準の2分類よりは理解し易くなったが、しかし、まだ違和感が残る。この違和感の原因は、出願人の立場に立って、出願時の数値限定の目的と審査時の進歩性有無の判断の場面を繋ぐ説明が欠落しているからであると思われる。

 すなわち、審査基準および多くの論説が、いきなり審査時を基準として論述している、言い換えれば審査官の立場でのみ論旨展開しているからである。論者はそのようなつもりではないのかもしれないが、知財専門家としてよりは技術者として特許に関わってきた期間の方が長い筆者にはそのように思えるのである。

 出願人には数値限定の目的が当然ある。したがって、出願人の立場に立てば、「数値限定の目的と特許性」という視点での思考が当然働くものと思われるが、この視点を端折って、いきなり「公知技術」を持ち出してきて進歩性云々と議論を進めているのである。もちろん、法律的には、「数値限定の目的」自体は特許性(進歩性)には関係しないので、知財専門家としては至極当然のことであるかもしれない。しかし、知財の専門家ではない出願人にとっては、出願時の数値限定の目的と審査時の進歩性有無の判断の場面を繋ぐ思考ステップの説明があった方が理解し易いものと思う。

 したがって、本項では「数値限定の目的」からスタートして、数値限定発明の進歩性有無の判断、さらには、進歩性を認められるために出願時に布石として打っておくべき留意点について論を進めていく。 ・・・・つづく

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